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記事: カーネリアン ― 古代から続く赤の石

金色の背景の上に置かれた古代ローマ風のカーネリアン・インタリオリング。橙赤色の石が柔らかい光を受けて輝き、金属の質感と彫刻の陰影が際立つ構図。

カーネリアン ― 古代から続く赤の石

鉱物としてのカーネリアン

カーネリアン(Carnelian/紅玉髄)は、石英(SiO₂)の微細結晶から成る「玉髄(chalcedony)」の一種です。

鉄(Fe³⁺)を含むことによって橙赤色から褐赤色を示し、加熱によってさらに赤みが強くなります。
モース硬度は約6.5〜7で、装飾品や印章材として適した耐久性を持ちます。

この石は古代から現在に至るまで世界各地で産出し、特に古代ではインド・アラビア・サルディニアなどの産地が知られていました。

項目 内容
和名 紅玉髄(べにぎょくずい)
英名 Carnelian(または Cornelian)
分類 鉱物学上は「玉髄(Chalcedony)」の一種。石英(SiO₂)の微細結晶集合体。
化学組成 二酸化ケイ素(SiO₂)
結晶系 六方晶系(ただし集合体のため肉眼で結晶形は見えない)
硬度(モース硬度) 約6.5~7
比重 約2.6
色調 橙赤色~褐赤色。鉄分(Fe³⁺)による着色。加熱で赤みが増す。
主な産地 インド、ブラジル、ウルグアイ、サルディニア島、マダガスカルなど。古代では特にインド産・アラビア産が高品質とされた。

 

カーネリアンはアゲート(瑪瑙)や他の玉髄と同じく隙間や空洞に沈殿したシリカから形成され、均質な半透明赤色を呈することが特徴です。

 

古代メソポタミア ― 王墓と印章の石

紀元前3千年紀のメソポタミアでは、カーネリアンは王や神官の装身具・円筒印章に盛んに用いられました。

ウル王墓(Ur, 紀元前2600年頃)では、金・ラピスラズリとともにカーネリアン製の首飾りや印章が多数出土しています。

赤色は太陽や生命の象徴とされ、権威を示す装飾石として扱われていました。

 

古代エジプト ― 再生と守護の象徴

エジプトではカーネリアンは「hnmmt」と呼ばれ、護符・神像・装身具に多用されました。

『死者の書』第156章では、赤いカーネリアンで作ったスカラベが死者の心臓を守ると記されています。

太陽神ラーの力、または女神イシスの血と再生の象徴としての赤。

王墓や神殿からは、金やトルコ石と並ぶ主要素材として数多くの例が見つかっています。

 

ギリシア・ローマ世界 ― σάρδιον としての赤い宝石

金色の背景の上に置かれた古代ローマ風のカーネリアン・インタリオリング。橙赤色の石が柔らかい光を受けて輝き、金属の質感と彫刻の陰影が際立つ構図。

古典ギリシアでは「σάρδιον(sardion)」と呼ばれ、テオプラストス『石について(De Lapidibus)』やプリニウス『博物誌(Naturalis Historia)』第37巻に記述があります。

プリニウスはこの石を、印章や彫刻用の代表的な宝石として挙げています。

英国博物館やメトロポリタン美術館には、カーネリアンに人物や神話を刻んだインタリオ指輪(シグネットリング)が多数所蔵されており、実際にローマ帝国期に広く用いられていたことが考古学的に確認されています。

また、イングランド北部の軍事拠点ヴィンドランダ(Vindolanda)遺跡からは、鷲を刻んだカーネリアン・インタリオ指輪が発見されています。

これにより、帝国の辺境地でもカーネリアン製印章が使用されていたことが実証されています。

 

中世以降の伝承と宗教的継承

ローマ帝国崩壊後も、カーネリアンはイスラーム文化圏で「ʿAqīq(アキーグ)」と呼ばれ、指輪として信仰的に継承されました。

預言者ムハンマドがカーネリアンの印章指輪を身につけていたという伝承があり、現在もシーア派の宗教的慣習として残っています。

 

現代に伝わる赤の象徴

深紅のカーネリアンを中央にセットしたシルバーリング。鏡面に近い石面が光を反射し、腕部分には手彫りのスクロール模様が施されている。

カーネリアンは数千年にわたり、生命・太陽・再生を象徴する石として文化を越えて用いられてきました。

その鮮やかな赤は、王墓を飾り、神像を護り、印章として権威を刻み、信仰の証として今も残っています。

学術的・考古的にも裏づけられる、最古層から続く「人と石の関係」を物語る素材です。